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Issue 03 / 感度

音に敏感な人が、静かに働く方法

聴覚過敏を「感度」として設計に組み込んだ、あるデザイン事務所の一日。

聞き手: LOWKEY 編集部2026年11月読了 8分

蔵前の古いビルの4階に、9人のデザイン事務所がある。代表は自分の聴覚過敏を隠さない。机の配置も、会議の長さも、連絡の取り方も、そこから逆算して決めた。午前10時に訪ねて、夕方まで一緒に過ごした。

—— 入ってすぐ、静かだと感じました。

空調の音を測って、いちばん低い場所に机を置いているからだと思います。入居前に音量計を持って回ったら、窓際が56dB、いまの机の場所が46dBでした。10dBの差は、体感ではおよそ半分です。自分の席を決めるのにそこまでするのかと笑われましたが、毎日8時間いる場所だからです。

—— 聴覚過敏は、いつから自覚していましたか。

子どものころからです。学校の給食の時間がいちばんつらかった。食器の音と話し声が重なると、内容がぜんぶ同じ大きさで入ってくる。大人になってからは、オープンオフィスの電話が同じでした。隣の人の電話の内容を、聞きたくなくても覚えてしまう。

長いあいだ、それを弱さだと思っていました。会議で疲れて集中が切れると、自分の根性の問題だと考えていました。事務所を自分で持ったとき、最初に決めたのは、これを設計条件にしようということでした。建物の日当たりと同じで、条件として扱えばいいと思ったんです。

—— 具体的には、どんなルールがありますか。

3つだけです。電話は廊下の小部屋でかける。会議は45分で切る。耳栓をしていても、失礼にならない。

最後のは、自分が耳栓をつけて仕事をしていたらスタッフが真似をし始めたので、ルールにしました。いまは9人のうち5人が、午後のどこかで耳栓をつけています。声をかけるときは肩を叩く。それだけで、この事務所の集中のしかたが決まりました。

—— 聞こえないと、困ることはありませんか。

耳栓といっても、声は通るものを使っています。空調と外の車の音が薄くなって、人の声だけが残る。だから呼ばれれば分かります。むしろ困るのは、外の打ち合わせです。カフェで45分話すと、そのあと1時間は仕事になりません。だから外の打ち合わせは午後の最後に入れて、終わったら帰ります。

—— 感度が高いことは、仕事に役立っていますか。

役立つという言い方は、あまりしたくないんです。役立つから許される、という話になってしまうからです。ただ、クライアントの店舗の設計で、音の話を最初にするデザイナーは少ないと言われます。空調の吹き出し口の位置と、床材と、BGMの音量。私はそれを最初に聞きます。聞こえすぎるから、聞こえ方を設計できる。それは事実です。

—— 一日の終わりに、何をしますか。

帰りの電車で耳栓をつけて、何も聴きません。家に着くころには、頭の中の音がだいたい消えています。それから初めて、家族と話します。

午後5時、事務所の照明が半分落ちた。代表は「ここから先は各自の時間」と言って、自分の机に戻った。耳栓をつけている人が3人、つけていない人が2人。どちらも同じ静けさの中で、別々の仕事をしていた。

代表の希望により、事務所名と氏名は伏せています。

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